はじめに
養生テープなどに使用される粘着剤には、物を安定して固定する能力が求められるため、実用化には様々な評価項目をクリアする必要があります。
このページでは、アクリル粘着剤の評価項目およびその概要について解説していきます。
粘着剤の物性
粘着剤は性能も重要ですが、その性能には粘着剤の物性が強く影響するため、性能と合わせて確認していかなければなりません。
企業によって測定項目は異なると思いますが、おおよそ重要であると考えられるものを紹介していきます。
分子量
粘着剤は高分子である以上、分子量を切り離して考えることはできません。
分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用することで簡易的に求められます。
GPCで高分子を測定すると、数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwが得られますが、特に重要となるものがMwです。
通常、粘着剤は分子量が30万〜100万程度あり、その分布はかなり広い物になります。
そのため、粘着剤の物性としては、高分子量側の成分が強く影響するため、高分子の重量を加味したMwで見ていく必要があります。
しかし、高分子成分だけではなく、低分子側の成分(未反応モノマーなど)も粘着性能に影響します。
低分子側の成分が数%変わるだけで、粘着力などに影響が出るため、分子量という数値だけではなく、GPC波形(面積比)も合わせて確認することをお勧めします。
酸価・水酸基価
酸価は高分子中にあるカルボキシ基の量を示した値、水酸基価はヒドロキシ基の量を示した値になります。
アクリル粘着剤では弾力を発揮させるために、イソシアネートや金属機レートなどの架橋剤で架橋させ、3次元網目構造を形成する必要があります。
そのために必要となる架橋部位がカルボキシ基、ヒドロキシ基になります。
酸価、水酸基価の値が高いほど粘着剤は架橋剤と反応しやすくなり、反応後により硬くなります。
粘度
アクリル粘着剤を使用していく上で、粘度も重要な項目となります。
粘着テープは粘着剤をロールに乗せ、支持体に塗工・乾燥させることで作製します。
そのため、粘着剤の粘度が極端に高い・低いとロールに乗せることができず、テープを作製することができません。
そのため、ロールに乗せられるように粘着剤の分子量や固形分などの恒数を調整する必要があります。
ポットライフ
ポットライフはアクリル樹脂に架橋剤を加えた後、使用可能である最長時間のことを指します。
アクリル粘着剤に架橋剤を加えて混合すると、時間が経つにつれて架橋反応が進行し、粘度が増加します。
実際に工場で粘着剤を塗工する場合、架橋剤を加えてから塗工を開始するまでに数十分〜数時間のラグがあります。
先ほど説明したように、粘着剤はロールに乗せて塗工するため、粘度が高くなった状態ではロールに乗せられなくなり、塗工が不可能になります。
そのため、粘着剤に架橋剤を加え、時間経過による粘度の推移を確認し、使用可能時間を考慮する必要があります。
粘着剤の性能
粘着テープには基本的に粘着力、保持力、タックの三物性が特に重要であり、全て合わせて「粘着三物性」と言います。
ここでは、この三物性がどのようなものなのかについて説明します。
粘着力
粘着力は、ステンレス板(SUS)に貼り合わせた粘着テープを剥がす際の力を測定することで数値として得られます。
剥離方向としては90°と180°の2つのパターンがありますが、180°で剥離した結果を使用することが多いです。
粘着力は使用する粘着テープの支持体の剛性の影響を受けて変化します。
この支持体による粘着力の変化ですが、90°剥離の方が影響が出づらいため、支持体の影響を除きたい場合は90°剥離で測定することをお勧めします。
また、粘着テープの剥離部位はバネとして振動するため、剥離距離が長くなるほど粘着力がブレる傾向があります。
保持力
保持力はSUSに粘着テープを張り合わせ、その粘着テープにおもりを付けて一定時間置いた際に、どのくらいテープがずれるのかを測る測定方法です。
例えば、養生テープなどは貼り付けて長時間放置することが多いですので、その際に剥がれたりしないか検証するために保持力試験を行います。
粘着力とは異なり、粘着テープにゆっくりとした荷重をかけることになりますので、粘着剤が柔らかい状態での性能を測る試験になります。
通常、粘着剤の分子量を上げるなど、粘着剤自体を硬くする方向に変えることで保持力は高くなります。
タック
タックは粘着テープのベタつきを示す指標です。
タックの測定方法には、ボールタックやループタックなど様々な方法がありますが、ボールタックが簡便な方法ですので、採用されることが多いです。
ボールタックは所定の角度の坂に、ベタつき面を上にした粘着テープを貼り付け、その粘着面に鋼球を転がし、測定範囲内で停止する球の最大サイズを測定する方法です。
保持力とは異なり、タックは瞬間的な変化を測定するものになりますので、粘着剤が固い状態の性能を確認する試験となります。
タックは粘着力や保持力以上にブレが大きい試験方法ですので、測定方法をしっかり定める必要があります。
測定時の角度や鋼球の保存状態、洗浄の程度など、ブレる要因はかなり多いので、注意しましょう。
まとめ
このページではアクリル粘着剤の基本的な評価項目について解説いたしました。
それぞれの測定方法の具体的なやり方は別ページで解説しますので、そちらをご参照ください。