はじめに
私たちの身の回りには椅子やテーブルなどの木で作られたものが数多くあります。
今回はこの木材がどのような物なのかについて解説していきます。
木材とは
木材はその名の通り、樹木から得られる材料のことを指します。しかし、樹木の全ての部位が木材になるわけではありません。
伐採した樹木の断面を見ると、以下のようになっています。
木材-Wikipedia
木材は上の図のように色が濃い中心側と色が薄い外側で構成されています。この色が濃い部分を心材、色が薄い部分を辺材と言います。
この部位はそれぞれ木材として使用されますが、使用用途がそれぞれ異なります。
心材:心材は既に樹木の細胞が死んだ部位であり、水分が少ないため堅いという特徴があります。この部位は堅いため、椅子やテーブルなどの強度が求められる用途で使用されます。
辺材:辺材は心材とは異なり、細胞が生きた部位ですので、水分が多く柔らかい特徴があります。この特徴を活かして、辺材はフローリングなどに使用されています。
また、心材・辺材だけではなく、樹木から取れる樹皮もコルクの材料などに使用されています。
木材の分類
木材には数多くの種類がありますが、大きく針葉樹と広葉樹の2種類に分けられます。
針葉樹・広葉樹は葉の形が異なることが大きな特徴です。針葉樹は葉が針のように細く、広葉樹は葉が平たくなっています。
よくわかる!?解説/木のはなし-プレイリーホームズのコラムβ
また、針葉樹と広葉樹は葉の形だけではなく、細胞が異なります。針葉樹は大部分が仮導管という組織で作られています。
針葉樹(スギ)の走査電子顕微鏡画像-兵庫県立農林水産技術総合センター
上図の複数ある穴が針葉樹の仮導管です。仮導管は針葉樹全体の95%以上を占めており、樹木の強度向上や水分の輸送などの役割を果たしています。
一方で、広葉樹は針葉樹よりも複雑な構造を持っています。針葉樹では仮導管が殆どの役割を担っていましたが、広葉樹は複数の組織がそれぞれの役割を持っています。
広葉樹(ブナ)の走査電子顕微鏡画像-京都大学大学院農学研究科森林科学専攻
上図の少し大きめの穴が広葉樹の導管です。広葉樹の導管は水分の輸送の役割を持っています。また、針葉樹の仮導管と比べて穴が大きいことから、水分の輸送効率が高いという特徴があります。
また、導管の周囲にある小さな穴が仮導管であり、③④で記された繊維組織が樹木の強度を上げています。
広葉樹では導管の配列パターンによって、環孔材、散孔材、半環孔材、放射孔材、紋様孔材の5種類に分けられます。それぞれの木材の特徴は以下の通りです。
木づかいセミナー-京都大学
木材の成分・構成
先ほどまで、木材の分類、そして木材がどのような構造を持っているのか解説いたしました。
では次に、木材がどのような成分から構成されているのかについて説明いたします。
まず成分ですが、木材はほぼセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つの要素から成り立っています。
これらの成分の割合は以下の通りです。
木材の成分割合-農林水産省
リグニンが20~35%、セルロースが40~50%、ヘミセルロースが20~25%、その他の成分が数%という構成となっています。
次にセルロース、ヘミセルロース、リグニンがどのような物なのかについて説明いたします。
セルロース
セルロースは炭素、酸素、水素から構成される成分であり、グルコースが2つ連なったような構造が複数連結することで構成されています。構造については以下のようになります。
セルロースは木材に限らず、数多くの植物の細胞壁や繊維中に見られ、地球上で最も多く存在する炭水化物と言われています。
また、私たちが食物繊維として摂取している成分の大半がこのセルロースになります。他にも紙や綿などの植物から構成されるものの大部分はこのセルロースの繊維が使用されており、私たちの生活と切り離せないものになっています。
セルロースの重合度は植物によって異なり、木材では約10,000、綿では約15,000となっています。
セルロースは構造中にヒドロキシ基などの極性基を多く有するため、結晶性が高く硬い性質を持っています。
また、セルロースはエーテル結合などの安定な結合によって形成されているため、加水分解を起こしづらく、アルカリや酸に対する耐性が高いという特徴があります。仮にエーテル結合部位を分解したい場合、硫酸などの強酸を加えて熱をかけるといった激しい反応を行う必要があります。
ヘミセルロース
ヘミセルロースは”セルロース”と名前中についていますが、セルロース以外の糖成分を指します。
セルロース以外の糖ですので、ヘミセルロースには様々な種類の糖が含まれており、アモルファス構造を持ったヘテロポリマーになります。
※ヘテロポリマー:2種類以上の異なるポリマーから成るポリマー
含まれる糖の種類としてはマンノースやアラビノース、キシロースなどがあります。
これらの糖はセルロースに比べると分子量が大きく劣るため、セルロースよりも分解しやすい性質があります。
リグニン
リグニンはセルロースに次ぐ自然界で二番目に多く存在する炭水化物です。このリグニンは以下のような複雑な構造を有しています。
リグニンは酸素と水素、炭素から成る炭水化物であり、構造中に芳香環を持った重合体です。
リグニンの構造は決まった形ではなく、植物の種類によって異なります。また、セルロースと同様に分解しづらいC-C結合、エーテル結合から成るため、安定性が非常に高い特徴を持ちます。
木材の特徴
木材には他の材料にはない様々な特徴があります。耐久性や断熱性など、その特徴は様々です。ここではそれらの特徴について説明していきます。
軽量・高耐久
木材の分類のところで示したように、木材は細胞がハニカム構造(六角形を並べたような構造)を持ちます。
ハニカム構造について-ニッセイ基礎研究所
六角形が積み重なったハニカム構造は外部から力を受けた際、他の5つの辺から力を分散させることができます。そのため、ハニカム構造は四角形や三角形が積みあがった構造よりも、遥かに高い耐久性を持ちます。
また、木材のハニカム構造を形成する導管・仮導管は中が空洞となっているため、軽いという特徴があります。
そのため、木材は自身の重さに対する耐久性が高く、家屋などに広く用いられています。
高い断熱性
木材は金属などの他の材料と比較して断熱性能が極めて高い特徴を持ちます。
この木材の断熱性能の高さですが、木材の熱伝導率が極めて低いことに起因します。
※熱伝導率:熱の伝わりやすさを数値として表したもの
木材は空隙が多く、空気を多く含有しています。この空気は熱の伝導率が極めて低いため、木材の熱伝導率は低くなります。
実際の数値として、金属の熱伝導率は約80 W/m・Kであるのに対し、木材の熱伝導率は0.2 W/m・Kと約400分の1の値です。
このように木材は熱が移動しづらいため、温まりにくく、冷たくなりにくい材料となります。
湿度調整機能
先ほど示したように、木材は大部分がセルロースとヘミセルロースから構成されています。
このセルロースやヘミセルロースは水素結合を起こすヒドロキシ基などの極性基を有しているため、高湿度環境では空気中の水分を引き寄せ、低湿度環境では水分を放出します。
そのため、木材は高湿度の夏場は湿度を下げ、低湿度の冬場は湿度を上げてくれます。
長期安定性
通常、材料は使用期間が長くなるほど脆くなり、耐久性能が低下します。
しかし、木材は先ほど説明したようにハニカム構造を持つため高い耐久性があり、更に経時で水分が抜けていくことで、更にハニカム構造の強度が増加します。
そのため、木材は他の材料とは異なり、安心して長期間使用することが可能です。
耐火性
木材は燃えやすい印象を受けますが、実際の耐火性が高い材料になります。
木材は400〜460℃で発火しますが、これによって炭化という化学変化を生じます。
炭化は構造中の成分が分解し、炭素のみになる反応を指します。
通常、酸素が十分に存在する環境では、炭素は酸素と結びつき、二酸化炭素となって空気中に放出されます。
しかし、燃焼が激しく、酸素供給量が不足すると、二酸化炭素への変化が起こりづらくなり、炭化が進行します。
炭化した木材は収縮してハニカム構造が潰れ、空隙が小さくなります。
木炭における空隙構造形成の機構-京都大学学術情報リポジトリ
また、構造が炭素のみで形成されるようになるため、構造が密となります。
このような理由により、炭化した木材は酸素の供給をシャットアウトするようになります。
木材に火がつくと、表面が炭化し、内部には酸素が供給されません。
また、木材は断熱性が高い材料ですので、内部が高温になり、発火することも稀です。
そのため、木材は火災が起きた際にも、長期間耐えられる耐火性が高い材料と言われています。
一方で金属などは熱が加わると、全体に熱が伝導して軟らかくなりますので、木材よりも耐火性が低い材料となります。
消臭・殺菌効果
森林の中に入ると、空気が清涼で良い香りがすると感じることはないでしょうか?
これは木材が放出する「フィトンチッド」という成分が関わっています。
フィトンチッドとは、樹木が作り出す、揮発性のテルペン成分のことを指します。
このテルペンはイソプレンという成分を構成単位とした炭化水素系の物質のことを言います。
テルペン-Wikipedia
これらのテルペンのうち、二量体・三量体のものをモノテルペン・セスキテルペンと言い、芳香性と揮発性を持ちます。
また、テルペンは除菌効果、ダニの発生を抑制する効果などを有しています。
光の吸収・反射
太陽光中には5〜6%程度の紫外線が含まれており、目を刺激したり、皮膚のシミの原因となります。
木材は金属などの材料とは異なり、紫外線を吸収する性質を有しているため、人体に有害な光を反射しない、人に優しい材料です。
また、木材は紫外線を吸収しますが、赤外線や可視光線などの光は反射する性質を持ちます。
この反射率は50〜60%程度であり、人が快適に感じる程度に抑えられています。