はじめに
私たちの身の回りには、熱を利用したものが多く使われています。
特に身近に感じられる物の一つとして”体温計”が上げられるでしょう。
体温計は私たちの体の温度を測定し、数値として表示してくれる優れものです。
実際、体温計は熱をそのまま機械が感知しているのではなく、熱を電気信号に変換するプロセスを経て、測定を可能としています。
この熱を電気信号に変換するプロセスのことを”ゼーベック効果”と言います。
しかし、熱を電気に変えると言っても、実際にはどのような現象が起こっているのか想像し難いでしょう。
そこで今回は、このゼーベック効果とはどういったものなのか、解説していきたいと思います。
ゼーベック効果
上述した通り、ゼーベック効果は熱から電気を生み出す現象のことを言います。
更に詳細に言うと、異なる金属・半導体に熱をかけた際の微小な温度差を電気エネルギーに変換する現象です。
初めて聞いた方からすると意味がわからないですよね。
まずはこの複雑な現象を説明する前に、金属・半導体内部の正孔(ホール)と自由電子について解説します。
正孔(ホール)・自由電子
まずは正孔と自由電子の定義から入りましょう。
正孔は価電子(原子の最外殻にある電子)が移動することで発生した穴のことを言います。
p型半導体-東芝デバイス&ストレージ株式会社
例えば、シリコン(Si:ケイ素)などの4価の元素に対して3価の元素(ホウ素、アルミニウムなど)を添加することで共有結合を形成し、結晶化します。
このシリコンと3価の元素から成る共有結合ですが、電子が1つ欠けた状態となります。
この電子が欠けた場所のことを”正孔(ホール)”と言います。
正孔は電子が欠けた状態ですので、他の電子が充分にある箇所から電子を受け取り、欠けている穴を埋めます。
すると、次は電子を渡した箇所の電子が不足し、新しい正孔が発生します。
これを繰り返していくことで、正孔は電子を移動させる(電気を流す)事が可能となります。
正孔-Wikipedia
正孔は電子が不足(正に帯電)した状態で電子の受け渡しを行うため、見かけ上、正の電子を運搬しているように映ります。
一方で、自由電子は原子の結合に左右されずに、自由に移動が可能な電子のことを言います。
n型半導体-東芝デバイス&ストレージ株式会社
シリコン(Si:ケイ素)などの4価の元素に対して5価の元素(リン、ヒ素など)を添加すると、電子が一つ過剰に存在する状態になります。
この過剰な電子が”自由電子”となり、半導体中を移動することで電流が流れます。
正孔は正に帯電、自由電子は負に帯電すると覚えておきましょう。
ちなみに、正の電荷を運ぶ(正孔をもつ)半導体を「p型半導体」、負の電荷を運ぶ半導体を「n型半導体」と言います。
それでは次に、熱によって電気が生まれる仕組みを説明していきます。
熱による電子の移動
先ほど説明した正孔と自由電子は、金属や半導体中を移動して電気を流すことを可能としています。
正孔と自由電子の移動のしやすさは、金属や半導体の種類によって異なります。
そして、正孔と自由電子の移動は、熱をかける(熱エネルギーが高くなる)ことで活発化します。
正孔と自由電子の移動が活発化するということは、更に電気が流れやすくなるということです。
そのため、異なる金属・半導体を用意して熱をかけると、正孔・自由電子の移動に差が発生します。
電圧の発生
上記のメカニズムによって、異なる金属・半導体間では、正孔・自由電子の移動に差が生じます(濃度勾配が発生)。
電子は濃度が高い方から低い方へと流れていきますから、正孔・自由電子の濃度勾配によって電位差が発生します。
その結果、熱によって電気が流れるようになるのです。
まとめ
本記事では熱から電気を生み出す現象であるゼーベック効果について解説していきました。ゼーベック効果は、熱によって異なる金属・半導体の電子・正孔の移動が活発になり、濃度勾配が生じることで電圧が発生することによるものだと覚えていきましょう。