【高分子】乳化重合の利点と欠点

はじめに

今回は数ある重合方法の中でも、乳化重合について解説していきます。

乳化重合は高分子合成方法の一つですが、水と乳化剤が介在してくるという点で、他の重合方法とは反応性、得られる高分子の特徴が大きく異なります。

溶液重合と同じような条件で合成をしてしまうと、合成が上手くいかない、目的物とは大きく異なるものが得られたということになり得ます。

乳化重合とは

乳化重合はモノマー油滴を界面活性剤(乳化剤)で水中に分散させてミセルを形成し、そこに開始剤を加えて反応を行う重合方法です。

乳化重合の利点

乳化重合の主な利点は以下の通りです。

1.小さいサイズのエマルションが得られる。

2.反応熱を制御しやすい。

3.分子量が高いポリマーが得られる。

1について

水が介在するという点では、乳化重合と懸濁重合は同様ですが、乳化剤が間に入ってくるため、得られるポリマー粒子は非常に小さい(ナノスケール)になります。

2について

塊状重合や溶液重合では反応熱の制御がネックでしたが、乳化重合では水が連続層として存在するため、反応熱を制御しやすいという利点があります。

3について

別記事にて説明しますが、乳化重合では反応が進行するポリマー粒子内のラジカル量が極めて少ないため、ポリマーが高分子になりやすいという特徴もあります。

乳化重合・エマルションの欠点

乳化重合には粒子が微細、反応を制御しやすく、高分子が得やすいという多くの利点がありますが、その一方で欠点もあります。

乳化重合とそれにより得られるエマルションの主な欠点は以下の通りです。

1.設計によっては分散安定性が悪く、エマルションの凝集・沈降の懸念がある。

2.乳化剤がポリマー中に混在することで、ポリマー性能を悪化させる。

3.乾燥性が悪い。

4.水が腐る。

1について

乳化重合によって得られるエマルションは、通常では水に分散しないものを乳化剤によって強制的に分散させている状態です。

そのため、乳化剤・モノマーの設計を誤り、親水・疎水のパランスが崩れるとエマルションが崩壊します。

また、ポリスチレンのような比重が1を超えるポリマーエマルションでは、時間経過によってエマルションが沈降していきます。

エマルション自体が崩壊していなければ、再分散が可能ですが、工業用途ではスケールが大きく、再分散が難しいため、品質に影響が出ます。

2について

乳化重合によって得られるポリマーの分子量は数十万〜数百万と極めて高い値になります。その一方で乳化剤の分子量は種類によりますが、数百程度です。

分子量が800を下回るような成分は人の皮膚に浸透する可能性がありますので、皮膚に触れるような用途では特に注意が必要となります。

エマルションを塗膜にして使用する場合においても、低分子の物質が混在することで強度を下げる恐れがあります。

更に、乳化剤は親水基を有する関係上、水の影響を強く受けます。塗膜の用途では、雨や湿度による劣化を考慮しなければなりません。

3について

エマルションの分散媒として使用している水は、トルエンなどの溶剤と比較して乾燥性が悪く、乾燥により多くのエネルギーを必要とします。

また表面張力も高いため、高温で迅速に乾燥させないとムラが発生します。

エマルションは溶剤を使用せず、環境に優しいと言われますが、乾燥のために必要となるエネルギーも考慮するべきでしょう。

4について

エマルションは酸性環境でなければ水が腐ってしまいます。

長期的に保存するためには防腐剤を加える必要があり、エマルションの性能に影響を及ぼす可能性があります。

まとめ

本記事では乳化重合の利点・欠点とそれにより得られるエマルションの問題点について記述いたしました。

エマルションは溶剤を使用せず、環境に優しいことで注目を集めていますが、その利用には様々な注意点があります。

実際に観察・測定してデータを得ないと分からないことは多々ありますが、最低限どのような特徴を持っているのか知っておいた方がいいでしょう。

タイトルとURLをコピーしました